店内に一歩足を踏み入れると、右を向いても、左を向いても、猫本!猫本!猫本!
猫が登場する小説やエッセイ、絵本から、猫の写真集、飼育指南書、研究書にいたるまで、猫に関する本ばかりがズラリと陳列された書棚は壮観です。
「猫が好きな人は、笑顔が違う。お店に入るなりニコニコしはるから、好きなんやろな~とすぐ分かります。」
笑ってそう語る櫻井さん自身も、もちろん無類の猫好き。
幼い頃から様々な動物に囲まれて育ち、これまでに何十匹もの猫と暮らしてきました。
ここはまさに、猫好きによる、猫好きのための楽園なのです。
サクラヤが三条会商店街に開店したのは2017年7月のこと。
店のオーナーである櫻井さんのお兄さんが熱心な読書家であり、また、櫻井さんと同じく大の猫好きでもあることから、趣味で集めていた大量の蔵書のうち、猫に関するものを選び出して猫本専門の古本屋を始めようと思い立ったのがきっかけでした。
開店より7ヶ月ほど前、「本屋さんをしようと思うのやけど、やるか?」と、お兄さんから誘われた櫻井さん。
面白そうだと思って快諾したものの、当初は猫本屋だと知らず、後でそれが分かったときには、「ええ~っ!」とびっくりしたのだそう。
櫻井さんはもともと、デパートで数十年来にわたり婦人服販売に携わってきた接客のプロ。
出会う人ひとりひとりを大切に、真心を込めて対話される櫻井さんの温かさ、朗らかさを慕って、繰り返しお店を訪れる人が多いのは、デパートでも、サクラヤでも変わりません。
お客さんがゆっくり本を見ながら親しく交流できる場にしたい、という願いから、「猫本サロン」と名付けたサクラヤでは、櫻井さんを囲んで、和やかなおしゃべりが日々繰り広げられています。
猫なしの人生は考えられないという人、拾った子猫の世話の相談をしに来る人、猫の雑貨を製作している作家、猫の研究者、猫の絵本を読みに来た近所の子ども、一期一会の出会いを求めてフラリと立ち寄った旅人など、店を訪れる人はさまざま。
めぐり合う人びとが、ほんのひととき、温かく、どこか懐かしい時間をともにし、それぞれの新しい希望を思い描いていく―そんなサクラヤの櫻井映さんに仕事観をうかがいました。
なんぼでも、猫のことやったら語れます
―Q 仕事をしていて、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
櫻井さん:
やりがいは、やっぱりお客様との会話ですよね。一番楽しいですね。
まして猫好きの人が来てくださったら、ほんと、なんぼでも猫のことやったら語れます。向こうも語ってくれはりますからね、猫が好きな方は。そういう共通の会話はやっぱり楽しいですから、やりがいがあります。
お客さんが来られる時は、続けて何人かまとめて来られるから、一人入られて、また二人入られてとかすると、猫好きの方っていうのはお客さん同士でまた会話がつながってくるんですよね。だからそういうので、みんなで話ができたりとかするのは楽しいですね。
暇なときの方が疲れます
―Q 仕事をしていて、つらいと感じるのはどんな時ですか?
櫻井さん:
つらいっていうのはあんまりないです。お客様が来られないことです(笑)。仕事で誰とも会話できない日はやっぱり寂しい。つらいまでは行かないですが、ちょっと寂しいですし、暇な方が逆に疲れます。お客様が来られた時の方が、疲れがないです。人と接することが好きなんで。
「猫ちゃんのお名前は何ですか?」
―Q 仕事をする中で大切にしているのはどんなことですか?
櫻井さん:
やっぱり健康を維持しとかないと仕事できないですし、体調管理だけは気をつけてますね。私が休んだらお店閉めないといけないですしね。だから、しんどいときは、早く閉めて帰ったりします(笑)。疲れた時は休むようにしてます。とりあえず、まず毎日ここに来られることが大切ですね。こういう店ですし、私が暗くしてると余計お客さんも入りづらいでしょうし(笑)。
お客様と接するときは、やっぱりだいたい猫ちゃんを好きな方が入ってこられるので、その猫ちゃんのことを聞いたりしますね。「どんな猫ちゃん飼ってはるんですか?」とか、「お名前は何ですか?」とか聞いたら、和んでくださるんで。「よかったら写真あります?」とか言うたら、嬉しそうに見せてくれはるんです。まあこっちが言わなくても写真見せてくれはる方もあるんですけど、中には向こうから言えない方もあるでしょうね。だからそういう会話を大切にしたりとかはしてますね。
猫の本が癒しや救いになれば
―Q 仕事を通じて、どんな方にどんな幸せを届けたいですか?
櫻井さん:
お客様のお話を聞いてると、最近、心に悩みを持ってる方とか多いんですよ。
あるお母さんが来られて、仰っていました。娘さんが大学に入るまでは普通だったのに、大学に入ってしばらくしたら、家から出られなくなって、学校にも行かなくなって、会話もなくなったんですって。その時に、何か月かたったときに、子猫をもらったか拾ったかどっちか言うてはったんですけど、その猫が来てから、ちょっとずつ心を開かれてだんだん明るくなられて、猫のおかげで救われたんですって。で、『猫が教えてくれた大切なこと』という本を買っていかれました。
猫によって色んなことを助けてもらったとか、猫と一緒に生活している中で自分や環境が変わったとか、そういう体験談みたいなことが出てくる本もあるんですよ。猫を飼っていない方でも、そういう本を読まれることで、ちょっとでも救いになったら、落ち込んでいるのを立ち直っていただいたら、嬉しいかな~と思って。
本を読まれない方やったら、猫の写真だけ見られても心が和みますよ。年配の方で、最近、字を読むのが面倒くさいって言わはる方だったら、写真集か絵本をおすすめする。
絵本って字が少なくて読みやすいですし、最近、老人ホームの方とか、買いに来られるんですよ。読まれなくても、絵だけで笑顔が出るんですって。学校で読み聞かせをされる方とかも、ちょこちょこ絵本を買いにこられます。
こないだご近所の方が、「癒やされる本ない?」って来はったんです。ご主人が病気で入院されて、「明日手術なんです。落ち込んでるから癒される本が読みたくて」って、本を買いに来てくださって。その時『100万回生きたねこ』を買って帰ってくれはったんです。その後、手術が成功されて、今はもうお元気になってらっしゃるんですけどね、そういうなんを聞くと嬉しいです。
こんな楽しい仕事ある!?
―Q あなたにとって仕事とは?
櫻井さん:
私は仕事が好きなんで、たぶん生きがいかもしれないですね。
最初、事務職のOLをしてた頃は日曜が休みやったので、日曜がすごく嫌だったんです。会社に行けないから。
でも、すごく忙しかったもんで、その時に身体をこわして辞めたんです。で、1年間家にいたんですけど、その間、仕事してないと、世間から取り残されているような気になったんですよ。
その後、27歳でデパートに就職して、そっから販売の仕事が始まって、それがもう楽しくて仕様がなかった。「こんな楽しい仕事ある!?」と思って。お客さんと喋ってるの、楽しいです。お客さんも自分のことを色々喋ってくれはりますから、それを聞くのも楽しいですし。はい、たぶん天職だと思いますね。
デパートの仕事は、もうずーっと未だに続いています。今ここで毎日仕事してて、休みなしで働いてるから、向こうも気遣ってくれますけど、セールで忙しい時とか、1ヶ月に1回は特招会といってお得意さんを招待する時とか、ポイントアップの日とか、そういう時にお手伝いに行ったりしています。
ここをずっとやってるのと、デパートの仕事に行くのと、また気分転換になるんです。
仕事はすごく楽しいですし、やっぱり自分にとって、今思うたら生きがいかなと思うんです。そりゃ色んな出来事がありますけども、やっぱり仕事をしてる方が楽しいです。
この世に猫を作ってくれた神様に感謝
―Q あなたにとって猫とは?
櫻井さん:
猫が家にいたときは。ほんとに家族の一員でしたね。猫なんですけど、家族ですね。どう表現していいのか、よく分からないですけど(笑)。
今はもう猫ちゃんのことと自分のことと考えたらちょっと飼えないんで、猫飼ってる人のお話を聞いたりとか、本で我慢してるんです。
猫って、何でしょう。やっぱり人間にとって必要かな、と思います。嫌いな方は、嫌いっていうよりは、飼ったことないから良さが分からないだけじゃないかなと思うんですよ。たぶん、家にいてると情がわいてくるんですよね。良さが分かってくるっていうか。
この世に猫がいること自体がすごいことだと思うんですよ。なんでこんな可愛い子をこの世に神様が作ってくれたんかな、と私は感謝します。こんな可愛い動物いないと思いますよ。まあ、動物はみんな可愛いんですけど、特に猫は可愛いと思います。
猫のふわふわ感。それもあるかも分かりませんね。どんな仕草してても見てて飽きないんですよ。どんな格好してても可愛いんです。
ぜひ猫本を見に来てください
―最後に、お店のPRの言葉をお願いします
櫻井さん:
何も宣伝してないですし、店の上に看板もないんですよ。ちっちゃな店なんで、友達がここに来ても通りすぎて行くぐらい、目立たなかったみたいです。だから、これから宣伝をどうしたらいいか、お客さんに聞いたりしてます(笑)。
三条商店街に来られたらぜひ、猫本を買われなくてもいいから、見るだけでも、お店に来てくださったら嬉しいですね。それぐらいですかね(笑)。
猫本サロン サクラヤ
京都市中京区壬生馬場町5-1 ⇒地図
【アクセス】JR/京都市営地下鉄「二条駅」から徒歩5分
阪急「大宮駅」から徒歩10分
京都市バス「千本三条」から徒歩3分
【営業時間】11:00~18:00
【定休日】不定休(月に2、3回)
【HP】https://kyotoogakudo.thebase.in/