100人の仕事観

【木村漬物店】木村邦夫さん&孝子さん

(木村漬物店4代目 木村邦夫さん)

木村漬物店は、1908(明治41)年の創業から数えて、今年で110年を迎えました。
「ここにしかない本物の味」を伝える、三条会商店街の老舗の一つです。

お店で漬けているのは、白菜、きゅうり、茄子、大根、茎大根、壬生菜、日野菜、キャベツ、梅、らっきょ、生姜の漬物など、年間を通じて約20種類。

旬の時期も違えば、漬物にするのに必要な手間や時間もそれぞれ異なる野菜を、一つ一つ丁寧に漬け、最も美味しい状態でお客さんに届けています。

気温などの天候条件にも注意深く対応しながら、数ヶ月先、1年先を見越して進めなければならない漬物店の仕事には、豊富な経験と知恵が必須。

木村漬物店では現在、3代目店主の木村忍さん、忍さんの妻で創業者の孫にあたる孝子さん、そしてお二人の次男である4代目邦夫さんが力を合わせてお店を切り盛りしています。

創業者の木村春吉さんを中心に撮影された大正期中頃の集合写真。
春吉さんの家族の他、当時住み込みで働いていた従業員とその家族の姿もあります。
前列中央(左から4人目)が春吉さん、前列左から2人目が春吉さんの妻・しなさん、後列右から2人目が2代目の泰三さん。(写真提供:木村漬物店)

 
木村漬物店の名物といえば、やはり何といっても「壬生菜のひね漬け」。

糠と塩とウコンで漬けた「壬生菜のひね漬け」は、細かく刻んで、おろし生姜と醤油を混ぜ、熱々のご飯に載せていただくと、辛口の風味と歯ごたえとが相まって、とても美味!

ひね漬けされるのは、露地栽培で3月のお彼岸の頃にしか採れない特別な壬生菜で、年間を通じて市場に出回っている壬生菜とは異なる種類なのだそう。

その壬生菜を1年分まとめて、2日ほどの間に一気に漬け込み、半年後にようやく「ひね漬け」が出来上がります。

その後も1年間、味が変わらぬよう「お守り」をしながら販売する「ひね漬け」には、大変な手間がかかるといいます。

商売をする上での効率の悪さから、今や漬ける店も少なくなった「壬生菜のひね漬け」。

なぜ木村漬物店では現在も変わらず漬け続けているのかというと、「それを好きなお客さんが待っててくれはるから」(孝子さん)。

お客さんの期待と信頼、そして、それに誠実に応えようとする老舗の誇りが、伝統の味を今日まで守り伝えて来たのです。

今回は、木村漬物店4代目の邦夫さんと母の孝子さんにお話をうかがいました。

木村漬物店の名物「壬生菜のひね漬け」。
京都では、「壬生菜」のことを「水菜」と呼んできた歴史があります。

「やっぱり、ここやないとあかん」

―Q1 仕事をしていて、やりがいを感じるのはどんな時ですか?

邦夫さん
 やっぱり、漬けたものがみんな売れて行った時。上手いこと売れて行ってくれたら、やりがいを感じます。

孝子さん
 やりがいは、お客さんが褒めてくれはることやろ。これ美味しかったわあ、やっぱりここやないとあかん、とか。そんなん言うてくれはるなあ。毎日誰かが褒めてくれはる。お茄子をつけたんは日本一や、とか言うてくれはるおばさんもいはる(笑)。
 遠いとこからも来てくれはるしねえ。東京からも注文あるし、毎年色んなもん注文してくれはる人が、毎年毎年言うてくれはると、あ、今年も言うてくれはった思うて嬉しいし。そこそこ年配のお客さんやったら、もう今年は言うて来やらへんか分からんなあ、と思うたりするし。

創業時の屋号「山春」も見られる、かつての商品用ラベル。
「山春」は、創業者の木村春吉さんが山ノ内の出身であったことに由来します。

お客さんに満足していただくために、家族で味を厳しくチェック

―Q2 仕事をしていて、つらいと感じるのはどんな時ですか?

孝子さん
 今は、そんなにつらいとは思わへんなあ。
 昔はもっとつらかった。もっと忙しかったもんね、昔は。
 12月ゆうたら、毎晩1時2時ごろ寝てた。大晦日の日は、祇園さんの「をけら詣り」の火縄な、知らん?祇園さんで、縄に火つけてもろうてな、振り回して帰ってきはる時分に、まだお店を開けてたん。朝、元旦の朝刊が入る時分まで開けてた。片付けかけてたけどな。
 もう今は、いつもと同じぐらい、8時頃かな、7時半頃閉まる。

邦夫さん
 つらいのは、残業がある時(笑)。

孝子さん
 不機嫌になります(笑)。

邦夫さん
 まあまあ、確かに(爆笑)。
 思うようにお客さんに売れへん時ちゅうのも、やっぱりつらいですね。

孝子さん
 そやから、味やら、ちょっとあれしたら、この人に注意します。
 お客さんが言わはらへんでも、不満に思うたはるやろな、思うたら、やっぱりね。
 まあ、お客さんがそう思わはらへんように、こっちが先に気づいて、この人に言うわね。

色彩の美しさがひときわ目を引く日野菜漬け。
日野町(滋賀県)の伝統野菜である日野菜の漬物を、京都で初めて販売したのが木村漬物店です。

味を継承すること、お客さんの気持ちに寄り添うこと、嘘をつかないこと

―Q3 仕事をする中で大切にしているのはどんなことですか?

邦夫さん
 なんやろな。味の継承かな。漬物は伝統的な食べ物なので続けていくことが大切やと思うてます。

孝子さん
 お客さんの気持ちに寄り添うように、完全には寄り添えへんけど寄り添うように思うてます。
 それから、私は嘘をつくのが嫌い嘘をついてまで買うてもらおうとは思わへん。よう喋るけど、嘘は喋らへん。それは商売と関係なしに、何にでも。

店内に置かれた椅子。
孝子さんは、ここで馴染みのお客さんの話にゆっくり耳を傾けることも。

漬物の美味しさを多くの人に知ってもらいたい

―Q4 仕事を通じて、どんな方にどんな幸せを届けたいですか?

邦夫さん
 より多くの人に、漬物って美味しいんやなっちゅうのを分かってもらえるようにしたいです。最近やったら外国の人も時々買わはるさかいに、そんなんで少しでも広まっていってくれたらと。

孝子さん
 来てくれはる人に、愛情持って、美味しいもんを安う届けたいと思うてます。

伝統の継承と創造、そして生きがい

―Q5 あなたにとって仕事とは?

邦夫さん
 伝統を受け継いで、なおかつ新しい何かを造り出すことです。

孝子さん
 私は生きがいやね。
 まあ、生活の糧、生きていく糧やけど、やっぱり生きがいっていうか、朝起きて、化粧して、さあ店出ようと思うたら、ちょっと調子が悪うてもシャンとするわね。また終わったらしんどなるけど(笑)、お店いる間は忘れるいうか。
 生きがいになってんのや思います。

京つけもの受け継いで4代の味

―最後に、お店のPRの言葉をお願いします。

孝子さん
 安うて美味しい漬物屋です。それだけです。

邦夫さん
 知名度はないけど地道に商売やってます。
 京つけもの受け継いで4代の味、ぜひ一度食べてみてください。

木村漬物店
 京都市中京区西ノ京池ノ内町8(三条会商店街内)⇒地図
【アクセス】JR/京都市営地下鉄「二条駅」から徒歩5分
      阪急「大宮駅」から徒歩10分
      京都市バス「千本三条」から徒歩3分
【電話】075-841-1143
【営業時間】9:00~19:00
【定休日】毎週日曜日

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