京の起業家・経営者

【icingcookies TOBIRA】オーナーパティシエール 米田麻由さん

米田麻由さんが経営するicingcookies TOBIRAは、四条大宮から西へ歩いて数分のところにある。日本初の天然着色アイシングクッキー専門店として、3年前の5月に開店した。

白を基調とする洗練された雰囲気の店内には、愛らしいアイシングクッキーが親しげに並び、思わず笑顔を誘われる。

趣味として始めたアイシングクッキー

米田さんがアイシングクッキーを作り始めたのは今から5年前のこと。当時は、一般企業で働いていた。

会社員としての生活に疲れ、これからどうしていこうかと思い悩んでいたときに、ふと頭に浮かんだのがアイシングクッキーのことだった。

大学時代に、留学中の姉を尋ねて旅したアメリカで出会ったアイシングクッキー。その可愛らしさに一目で魅了され、心が華やいだ記憶がよみがえったのだ。

「自分でも出来るかな」と、アイシングクッキー作りにさっそく取り掛かった。もともと母の影響でお菓子作りが好きだったという米田さん。大学時代に製菓製パンのスクールへ通ってディプロマを取得した経歴も持っている。クッキーを作るのはお手のものだ。

米田さんにとってのアイシングクッキー作りは、まずは会社員時代の趣味として始まった。

天然着色のアイシングクッキーへのこだわり

米田さんが知恵を絞ったのは、なんといってもアイシング(クッキーやケーキのデコレーションのために砂糖で作るクリーム)の部分だ。

一般的なアイシングクッキーは、合成着色料を使ったアイシングクリームで装飾を施したものが圧倒的に多い。合成着色料を使うなら、簡単にアイシングクリームを作ることができる。だが、毒々しいまでに鮮やかな色彩を放つアイシングクッキーは、食の安全性にこだわる米田さんにとっては到底受け付けられないもの。アメリカで初めてアイシングクッキーに出会ったときも、「可愛い!」と心惹かれながら、「でも絶対に食べたくない」と、実際に口にすることはなかった。

そこで米田さんは、合成着色料を使わずに、天然由来の色素だけでアイシングクリームを作る方法を独自に探し求めることにした。アイシングクリームは水分の調整がとても難しく、1グラム単位の細やかな調整をしなければならない。アイシングクッキーの本場イギリスから洋書を取り寄せて学び、素材ごとにつぶしたり溶いたりして、求める色が手に入るまで、まるで「理科の実験のような」研究を繰り返した。そして7か月後、ついに思い描くアイシングクッキーが完成した。

ラズベリー、かぼちゃ、抹茶、紫芋、ココア、竹炭、スピルリナ、くちなしなどの天然素材から抽出した色はやさしく、心に染み渡る。ほのかに素材の風味を感じることもある。他の誰もが作ったことのないクッキーだった。

インスタグラムがきっかけで開業

出来上がったアイシングクッキーを友人や家族にプレゼントすると大好評。上達してきた頃を見計らってインスタグラムにクッキーの写真をアップすると、「これって買えますか?注文したいんですけど」と、見知らぬ人からの問い合わせが舞い込むようになった。
(※米田さんのインスタグラムはコチラ

そんな折、「これで店したら?」という父の一言がきっかけとなって、とんとん拍子に開業に向けての話が展開。こうして日本初の天然着色アイシングクッキー専門店がオープンしたのだ。

自分のこだわりを大切にしながら好きな趣味を追求していくうちに、自然とファンが集まり、周りから背中を押される形で開業に至った、というわけだ。

合成着色料を使わないアイシングクッキーは、作るのにひと手間もふた手間もかかる上、コストだって割高になる。しかし、「まずは親しんでもらいたい」気持ちから、市場から見ても平均~平均以下の価格を設定してきた。

食材にこだわりぬくTOBIRAのアイシングクッキーを求めて、いまや東京や名古屋、三重など、全国から熱心なファンが足を運んでいる。

伝統的な和モチーフのクッキー

米田さんのもう一つのこだわりは、和モチーフのデザインだ。伝統的な和の文様や着物をかたどったクッキーに力を入れて製作している。

アイシングクッキーに出会った当時、市場に出回っているアイシングクッキーがどれも似通った単調なデザインであることに、いささか物足りなさを感じていた。

アイシングクッキーのデザイン性の幅をもっと広げられないものかと模索するうちに辿りついたのが、繊細かつ優美な和の文化をクッキーで表現する、というアイディアだった。子どもの頃から着物が大好きだったという米田さん。和の文化の素晴らしさを守り伝える力になりたいという思いがある。京都だからこそできることもある。

誤りなく和の文化を伝えていくために、書物で研究するほか、花街出身者など専門家に指導を仰ぎに行って、クッキーのデザインをチェックしてもらっている。舞妓や芸妓の季節ごとの装いは、とりわけ参考になるそうだ。

新しいステップに進むときの「TOBIRA」になれたら

米田さんのアイシングクッキーは、大切な気持ちを誰かに届けたいときの贈り物として人気を集めている。たとえ言葉で上手く語ることができなくても、愛らしいクッキーがメッセージを運んでくれる。

「入学式、卒業式、ウェディング、ご出産、それから、これは(お店を)やってみて初めて気づけたこととして、お亡くなりになられたときにも使ってもらうことがありまして。(クッキーの)形は亡くなられた方が好きだったもの、たとえば猫ちゃんだったり、花束の形だったり。」

特別なときに、人の心と心をつないで、あたたかな輪を結ぶ。それが、米田さんのクッキーだ。

「新しいステップに進まれるときの『扉』のようなものになれたらな、と思って『TOBIRA』という名前にさせてもらってます」。

この仕事を始めてから優しくなった

常連客の中には、自分の人生の節目ごとに米田さんのクッキーを買い求める家族もいる。

結婚式のギフトに始まって、出産の内祝い、赤ちゃんの生後半年のハーフバースデイ、1歳のバースデイ、と、家族が育まれていく過程をずっと見守ることができるのが本当に幸せ、と米田さんは微笑む。

愛情をこめて作ったクッキーを喜んでくださる方がいる。感謝してくださる方がいる。それが嬉しくて、お店を始めて以来、笑顔でいることが増え、優しくもなった。「お客様のお手伝いがしたい」というモットーを常に心に刻んでいる。

「この仕事は天職って言うと大げさな言葉かもしれないけど、そうやな、って思ってます。この仕事で良かったなって心から思いますし、前の仕事いろいろありましたけど、辞めたことにも意味があったのかなって思うんですよ。」

海外でのアイシングクッキー教室、女性が働きやすい職場を目指して

不定期にアイシングクッキー教室を開くこともある。アイシングクッキーの魅力を多くの人に知ってもらいたいからだ。

これまで京都市内のみで開催してきたが、教室の情報をインスタグラムで見つけた人から、「ぜひ台湾でも教室をしてほしい」とリクエストが届くようになった。海外での教室開催は、米田さんにとって将来の目標の一つだ。

女性が働きやすい職場環境をゆくゆくは実現したい、とも考える。ずっとここで一緒に頑張っていこう、と、スタッフも自分自身も共に思うことができる職場。それが目標だ。かつて会社員として悩んだ時期を経た米田さんだからこそ、言葉に重みがある。

ふんわりと柔和な物腰の中に、揺るがぬ信念と情熱を垣間見せる米田さん。目標を現実のものにする日はそう遠くないだろう。

icingcookies TOBIRA
京都市中京区壬生梛ノ宮町13-32地図
アクセス:阪急大宮駅、嵐電四条大宮駅から徒歩6分
京都市バス壬生寺道南側下車すぐ
電話:075-823-0303
営業時間:11:00-19:00
定休日:毎週火曜日・水曜日
Instagram: https://www.instagram.com/icingcookies_tobira/

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